最期に日本のためにできること

我が国の近代史を中心に、これまで書籍等で知り得た内容を綴っていきます。

卒業/第 60 話

 

○中学校・教室

生徒たち、最後の談笑を楽しむ。

滝川と舞、答辞の原稿見ながら打合せする。

舞「あのおっさんを挑発できるのって何やろ?」

滝川「いろいろあるやろ。天皇陛下憲法改正教育勅語君が代……」

舞「君が代、最初に歌うし、もう一回壇上で歌うんもなぁ」

滝川「あと、天皇陛下を、こんなことで、引き合いに出すのも無礼やし」

舞「教育何とかって何?」

滝川「我が国の美しい道徳観念を凝縮した明治天皇からの贈り物や……父母ニ孝ニ兄弟ニ友ニ夫婦相和シ朋友相信シ」

舞「え、え、え?」

滝川「父母に孝行をつくし、兄弟姉妹仲よくし、夫婦互に睦び合い、朋友互に信義を以って交わり、(文部省訳)。要は日本古来の道徳観念を凝縮して言葉にしたためてんや」

舞「当たり前のことを、何でわざわざ」

滝川「明治時代、一気に西洋文化が流れ込んで、日本中が西洋フィーバーで浮かれ倒しててんや。その様子を心配された明治天皇が時の総理大臣に依頼して作らせたのが教育勅語や」

舞「へー」

 

○同・体育館

舞台壇上正面左に掲揚される日章旗

君が代を歌う卒業式の参加者たち。

保護者席に珠代、睦美、由美の姿もある。

竹村を始め一部の教職員、口を開くも歌わない。

教員の口元を見て回る教頭、困惑の表情。

     ×   ×   ×

舞、壇上で挨拶する。

舞「皆様方のご活躍をお祈りしつつ、御礼の言葉とさせて戴きます。最後に明治天皇からの贈り物『教育勅語』を唱和し、締め括りの言葉とさせていただきます」

一部の教職員、どよめく。

舞「朕惟フニ我カ皇祖皇宗国ヲ肇ムルコト宏遠ニ徳ヲ樹ツルコト深厚ナリ」

竹村、立ち上がり、

竹村「やめろ、小林! お前は中学最後の日を台無しにする気か! 戦争を美化する様な軍国主義教育勅語なんか取り上げやがって」

舞、演台を叩き、

舞「先生! 天皇陛下の悪口を言わないでください。先生、国旗に背を向けないでください。先生、自衛隊に敬意を払ってください。先生、君が代を一緒に歌ってください。そして先生、一緒にこの美しい日本の国を愛してください」

舞、全員の方を向き直り、

舞「教育勅語がお嫌いな方もいらっしゃるようですので、続きは皆さんで調べてください。最も美しい国語、世界中で愛されている国語です。本日は素晴らしい卒業式を誠にありがとうございました」

舞、一礼して壇上を降りる。

場内、シンと静まり返る。

睦、立ち上がりスタンディングオベーション

睦「舞! よう言うたー!」

慌てて珠代と由実が睦の服を引っ張る。

珠代「(小声で)やめんかいな、恥ずかしい」

他の保護者たちもパラパラ立ち上がりスタンディングオベーション

舞、水野に促され壇上に立って照れ臭そうに一礼する。

更に大きな拍手が沸き起こる。

     ×   ×   ×

司会「卒業生、起立。『仰げば尊し』斉唱」

日野、ピアノの椅子に座り『仰げば尊し』の伴奏を演奏する。

 

○同・中庭

体育館から流れる『仰げば尊し』の合唱。

柔らかな日差しに包まれる新憲法第九条のオブジェクト。

 

【完】

 


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卒業/第 59 話

○中学校・中庭

スーツ姿の水野と生徒たちが憲法第9条のオブジェクトの前に集まっている。

水野、必死にオブジェクトの文字を読んでいる。

その後ろでニヤニヤ笑う生徒たち。

水野「あれ、あれ、あれれー!」

滝川「どないやー! これが真の憲法第9条や。日本もこれで安泰やな」

水野「いや、お前、こ、国防軍って。それに、後、あれが無くなってる、あれ」

滝川「どれ?」

水野「『陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない』っていうのは、どこいってん?」

滝川「我が国の最高法規に嘘を書いたらあかんやろ! 戦力を持ってるのに、持ってないって書いてた今までがおかしいんや」

水野「え? あ……ま、まぁ、せやな」

竹村、嬉しそうに意気揚々とこちらに向かって来る。

竹村「おおー! 立派なんできてるがな(生徒たちに)ようやった!」

礼儀正しく深々と竹村にお辞儀する生徒たち。

竹村、嬉しそうに何度も頷く。

竹村「よっしゃ、読んでみるで」

水野、オブジェクトの前に立ちはだかり、

水野「あ、先生、式、もうじきですし、後でゆっくりと」

竹村、時計を見る。

竹村「水野先生、まだ充分、時間はありますよ。勿体ぶらんとていください」

と、水野を押し退ける。

竹村、右端から堪能するように一文字、一文字読む。

竹村「彫り込むと、また、いい味出すなぁ」

滝川「ありがとうございます!」

竹村「ん?」

水野、手を叩き、

水野「よっしゃ、みんな、一回、教室に戻ろうか。じゃあ、竹村先生後ほど」

と、竹村に一礼して生徒たちを校舎に追い立てる。

先を読み進める竹村、次第に憤りで肩が震える。

撤退し始める生徒たち。

竹村、振り返り、

竹村「滝川! ちょっと来い!」

水野「先生、そろそろ保護者の方も来られますので。また後で」

滝川、水野を押し退け、

滝川「はい、何すか?」

竹村「貴様という奴は、神聖な平和憲法を何と心得る」

と、滝川の胸ぐらを掴む。

滝川、怯む様子もなく、ほくそ笑む。

滝川「平和憲法と仰いますが、現行憲法で平和を維持する事は不可能です。現実的に北朝鮮は日本に向けてミサイルを発射しました。武器を持つ相手から我が国を守るのに、自衛隊に丸腰で臨めと仰ってるんですか?」

竹村「憲法九条さえ改正されんかったら、どっこも攻めてこん」

滝川「逆です。その憲法九条が我が国を脅かしてるんです。憲法九条のせいで我が国が、手も足も出せんことを知ってるから、中国もロシアも日本の領土、領海で好き放題するんです。このままでは、北朝鮮拉致被害者を救うチャンスが訪れても自衛隊は動くこともできません」

水野、二人の間に割って入る。

水野「(竹村に)うちのクラスの子に最後の挨拶したいんで、これぐらいにしてもらえませんか(滝川に)教室に戻り(他の生徒たちに)みんなも、早く教室に戻れー」

意気消沈した生徒たちトボトボと校舎に戻る。

竹村「おい、滝川、将来は、お前も人殺しの訓練するんか! 親も親やったら子も子やなぁ」

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参考資料:

産経新聞

陸上自衛隊は人殺しの訓練」共産党、奈良への駐屯地誘致反対チラシに記載

www.sankei.com

 

・ビジネスマン育成塾/

共産党自衛隊は人殺しだ」…この発言の異様さ!

businessman-ikusei.air-nifty.com

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滝川、竹村の方に猛突進する。

慌てて後を追いかける男子生徒たち。

水野、間一髪の所で滝川の前に立ちはだかって食い止める。

水野「(小声で)今日はお前にとっても、お前のご両親にとっても晴れの日や」

滝川、怒りが収まらず竹村に掴みかかろうとしている。それを後ろから必死で食い止める男子生徒たち。

水野「(小声で)滝川、今日を乗り越えられたら、お前もお父さんと同じ強い人間になれる。あんなおっさんらの天下なんか、後、僅かや。お前は立派な意見持ってるねんから、あんな奴、相手にするな」

舞、竹村の方に勢いよく歩み寄り、

舞「先生は卑怯です!」

竹村「ひ、卑怯?」

舞「先生のは議論とは全く関係のない誹謗中傷です! 反論が難しいから誹謗中傷に走るのは卑怯です! 滝川と滝川が最も尊敬するお父さんに対して、とんでもない言葉で、たった今、罵倒しました。これを卑怯と呼ばずに何と呼ぶんですか」

竹村「関係ないことない!」

舞「関係ありません! 左翼の人たちは自分が議論で負けが混むと、必ず議論から脱線します。テレビ番組ならまだしも、血税を使った国会の審議中でも平気で脱線して税金の無駄遣いをしています。先生は、もっと酷い。脱線するだけでなく、我が子同然の生徒に対してあの物言いは戦犯ものでしょ」

竹村「せ、戦犯?」

舞「だって滝川は根拠をもって冷静に意見しているのに、先生は何の根拠も示さず神聖だ、平和憲法だ、人殺しだと、こちらが恥ずかしくなるほど稚拙でした。還暦前のおっさんが遣う言葉ではありません。五、六歳の子供が、持てるだけの言葉を必死にぶつけてる様にしか見えませんでした。正直、気味悪いです」

竹村「い、いや、しかしな」

舞「だまらっしゃい! 九条が平和を守ってる? 言葉だけで平和を維持できるほど、国際社会は甘くありません! 前にも言いましたよね!」

水野「もう、それぐらいに」

舞「だまらっしゃい! だまらっしゃい! だまらっしゃーい! (竹村に)先生の行動の方が余程、私達の平和を乱しています。先生は滝川の胸ぐらを掴んだり、滝川や滝川のお父さんに対して薄汚い言葉で罵ったりして、非常に暴力的です。言葉と行動が矛盾しています。私はそんな先生の言葉に何の重みも共感も感じません。以上!」

竹村は勿論のこと、滝川、水野、男子生徒たち、戻ってきた生徒たち、共にポカンと口を開けて舞を眺めている。

舞、生徒たちの方に向いて、手を叩き、

舞「教室に戻りまっせー!」

生徒たち「お、おー」

と、首を傾げながら校舎に向かう。

舞「駆け足! おっさんのせいで、最後の貴重な時間食い潰されてもた」

生徒たち「おおー」

と、駆け出す生徒たち。

舞、滝川の背中を叩き、

舞「戦いは始まったばっかりや。私がもっと大勢の前で、あの、おっさんを叩きのめしたる。我が家の窮地を救ってくれた礼や」

と、ニヤリと笑って駆け出す。

滝川「え?」

水野「ハハハ、女の子は勇ましいなぁ」

滝川「お、おう」

と、はにかんで笑う。

水野「惚れたか?」

滝川「アホか」

と、水野を突き飛ばし校舎に全速力で走り出す。

水野「痛っ! 何でやねん!!」

竹村「あーあ、この国も終わりやなぁ。あんた、生徒らに何を教えてててんや」

水野「僕は何にも。彼らは自分の力で事実を突き止めて、未来への道筋を見つけたんです。僕は彼らが作る未来が楽しみですよ」

男子生徒A「先生、早く!」

水野「おう」

と、手を上げると校舎に向かって走っていく。

竹村「チッ」

と、悔しそうに水野と生徒たちの後ろ姿を睨む。

 


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卒業/第 58 話

○小林宅・・ベランダ

舞の声に驚き、手に持ったメダカの餌を水槽の中に落とす珠代。

水面を隠すようにプカプカ浮いている大量の餌。

悲しそうに、その水面を眺める珠代。

メダカ、我先にと大量の餌に集る。

 

○同・洗面所

修一、舞の声に驚いて歯磨き粉を壁にぶちまける。

悲しそうに壁を眺める修一。

 

○同・居間

由美、舞の声に驚いて仕分けていた結婚式の写真をそこいらにばらまく。

散らばる写真を悲しそうに眺める由美。

 

○再び舞の部屋

珠代、由美、修一、部屋に入る。

由美「どないしたん、舞ちゃん」

舞、悲壮な顔でキョロキョロする。

珠代「大丈夫か?」

舞、珠代の顔を確認するとポロポロ大粒の涙を流す。

舞「声、出た」

珠代「それが、どないしたん?」

舞「やっと、声出てん」

と、珠代に抱きついて泣き出す。舞「お婆ちゃん、いっつも、ごめん」

珠代、首を傾げながら舞の背中をさする。

修一「そんなん遠慮せんと、早よ言うてくれたらええのに」

舞「え? 何が?」

修一「よっしゃ、今日は、みんなでうまいもん食いに行こー!」

由美「ハイハイ! 私、フレンチ」

珠代「お母さん、お寿司」

修一「あんたらに聞いてない! 舞ちゃんに聞いてるんや。何する? 舞ちゃん」

舞「ああ、私? えーっと……」

由実「むっちゃんにもメールしとくな……って、そうや、出張やった」

修一「あいつは、ええ、ええ」

由美「そんなん言うてたら、また、怒られるで」

舞「あ、明日のお昼、帰って来るで」

由実「じゃあ、明日の夜にしようか」

と、スマホを操作する。

珠代「そうや! メダカの餌」

由美「どうしたん?」

珠代「舞ちゃんのせいで、メダカの餌、全部水槽に落としてもうたやん。また買いに行かな」

膨れっ面の舞。

修一「食い過ぎて、金魚になるんちゃうか」

由美「え! その次は……鯛?」

舞「ほっといたら、刺身食べれるやん」

修一「しかし、あの水槽じゃ小さいやろ」

珠代「なるかいな!」

由美「突然変異っていうこともあるし」

珠代「え……そんなん聞いたことないで。メダカは、メダカちゃうのん」

由美「目の小さい網やったら、餌回収できるんちゃう」

修一「急がな、おかん。えらい、こっちゃ、えらい、こっちゃ!」  

珠代「ただ水槽の水汚れるだけやがな」

修一「糞しすぎて」

珠代「餌が散らかってや! 食べたい分、食べたら置いときよるがな」

由美「大丈夫! お義母さん、後は私らに任せといて。えらい、こっちゃ! えらい、こっちゃ! あ、お義母さん、これ」

と、無造作に持った写真を預ける。

修一と由美、駆け足で部屋を出る。

珠代「(扉の外に向かって)あんたら、全然、話、聞いてないやんか! メダカまで掬わんといてや。ほんまに、もう」

と、手に持った写真を見る。

大欠伸する舞。

珠代「舞ちゃん、休みやからって、いつまでも寝てたらあかんで。ほら、これ」

と、舞に写真を渡して部屋を出る。

舞、写真を眺めて微笑む。

写真には新郎新婦を中心に、めかしこんだ親族一同が段上に並んで写っている。

舞、写真を指差しながら、

舞「珠ちゃん、君ちゃん、祥ちゃん、さっちゃん、そして、その子供たち、その孫たち」

 

○同・珠代の部屋(朝)

舞、曾祖父母の遺影の前で手を合わせる。

遺影の前に結婚式の写真が供えられている。

舞(M)「曾お爺ちゃん、曾お婆ちゃん、命を繋いでくれてありがとう。そして、あなたたちは、私たち家族の誇りです」

 


■凡例

 M :モノローグ(独白、独り言)

 


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卒業/第 57 話

○同・舞の部屋(夜)

舞、大東亜戦争の夢を見る。

昭和初期の長屋。

喜一郎と舞が向かい合って正座している。

喜一郎「珠代、お母さんの言うことちゃんと聞いて、お手伝いしぃや」

舞、ぼんやり喜一郎の顔を見る。

舞(M)「私が珠代……ということは私がお婆ちゃん? この人は遺影の曾お爺ちゃん?」

喜一郎、舞の膝を軽く叩く。

喜一郎「珠代、聞いてるんか?」

舞「はい」

喜一郎「お姉ちゃんやねんから、弟や妹の面倒、ちゃんと見なあかんで」

舞「はい!」

     ×   ×   ×

戦時下の街。

広場で出征兵士を見送る町内の人々、日章旗を振って叫ぶ。

町内の人々「出征、万歳、万歳!」

台の上に立つ喜一郎、敬礼している。

お腹の大きい志津と、その横に舞、君代、祥太郎も町内の人々に混じって同様に見送る。

     ×   ×   ×

戦地。銃撃戦の最中。

散兵壕(さんぺいごう)に身を隠す喜一郎、滝川。一様に緊迫した面持ち。

僅かに銃撃がやむ。

喜一郎と滝川、顔を見合わせる。

喜一郎・滝川「今生の別れ」

喜一郎と滝川、銃を持ち上げ散兵壕を飛び出すと、敵陣に走り込む。

飛び交う弾丸。

喜一郎が、滝川が、口々に叫びながら命を散らす。

喜一郎・滝川「天皇陛下万歳! 大日本帝国万歳!」

軍服姿の舞、血まみれの喜一郎と滝川の骸(むくろ)を見下ろす。

舞「(前方の敵を見据え)天皇陛下万歳! 大日本帝国万歳!」

舞、銃を構えて敵陣に向かって走り込む。

     ×   ×   ×

長屋。

志津、虚ろな目でお骨箱を抱える。

神妙な面持ちの舞と君代と祥太郎がその前に座る。

布団ですやすや眠る幸代。

志津「お父様は名誉の戦死を遂げられました」

お骨箱を持つ志津の手が震える。

舞、君代、祥太郎、俯いて涙を堪える。

志津、仏壇にお骨箱を置き、

志津「珠ちゃん、お母さん、ちょっと具合悪いから先寝るわ。(珠代以外に)みんな、お姉ちゃんの言うことちゃんと聞いて、いい子にしてるんやで」

志津、隣室に入り障子を閉める。

布団を被って泣いているのか、時折、すすり泣く声が聞こえる。

微かに聞こえる母の泣き声につられて、正座した君代、祥太郎も俯いて涙を流す。その横であどけない寝顔で眠る幸代。

舞、幸代の寝顔を見ながら、

舞「名誉の戦死……天皇陛下万歳大日本帝国万歳」

舞の頬に一筋の涙が伝う。

     ×   ×   ×

町内、夜半。

空襲警報が鳴り響く。

B29からバラバラ投下される焼夷弾

家や建物に着弾するとシャーッという音と共に火が一面に広がり、炎がメラメラ燃え上がる。

あちらこちらの家屋にも火が付き、一帯が火の海となる。

警防団や町内の人々、手に手にバケツを受け渡して水を撒くが消火が追いつかない。

家屋が崩れ落ちる。

防火していた人々、熱さに耐えきれず散り散りに逃げてゆく。

志津、背にしっかりと幸代を巻き付けて、もう片方の手で祥太郎の手を握る。

志津の目の前に防空頭巾を被った舞と君代がしっかり手をつないで立っている。

志津「珠ちゃん、喜美ちゃん、お母さんの後、しっかりついて来るんやで」

頷く舞と君代。

志津「もしお母さん、見失っても、八中、目指しや。お母さん、探したらいかんで。お母さんも、そこで待ってるからな」

不安そうに頷く舞と君代。

     ×   ×   ×

薄暗い防空壕

外の爆発音、悲鳴、サイレンなどの音が響き渡る。

舞と君代、不安げにしっかり手をつないで座る。煤で顔が黒くなっている。

その隣に日野が座り、その母親らしき老女が横たわる。

舞「ここ、何で、おばちゃんらだけなん?」

日野「ここは危ない言うて、みんな別の防空壕に逃げてもうた」

舞と君代の表情が曇る。

日野「あんたらも、他、当たった方がええわ」

舞「おばちゃんらは、どうするん?」

日野「おばちゃん、病人と一緒やし。もう、これ以上、逃げれんから、ここで死ぬわ」

舞と君代、しょんぼり俯く。

日野「あんたら、お母さんは?」

舞「はぐれた」

君代、ぐずつく。

舞、君代の背中をさすって慰める。

舞「八中に行ったら、お母さんにちゃんと会えるからな」

君代、ヒクヒク言いながら頷く。

近くで爆弾が炸裂し、壕が揺れる。

怯える一同。

誰も話せず、歯を食いしばって空襲の止むのを待つ。その間、何度も爆弾の炸裂音がし、壕が揺れる。

外が静かになる。

日野「空襲やんだんかなぁ」

舞と君代、嬉々として外に出ようとする。

日野、二人を制し、

日野「ちょっと待ち、危ないから。おばちゃんが先、覗いたるさかいに」

日野、防空壕から用心深く顔を出して外の様子を眺める。

日野「……もう、大阪も終わりや」

と、防空壕から外に出る。

続いて舞と君代も外に出る。

夜の闇に切れ目なく盛りを過ぎた炎が紅に浮かび上がる。

辺り一帯の建物は跡形なく消えてしまい、そこかしこの電線がだらしなく垂れ下がっている。そして遥か彼方先まで、平らな土地が続く。

焼け野原と化した大阪の街を呆然と眺める舞、君代、日野の後ろ姿。

     ×   ×   ×

避難所の第八中学校、校庭。

避難者でごった返す。

舞と君代、志津を捜す。二人とも煤で顔が黒くなっている。

舞・君代「お母さーん、お母さーん!」

二人とわずかに離れた所で、志津、舞と君代を捜して辺りをキョロキョロ見回している。

志津もまた煤で顔が黒くなっている。手を繋いだ祥太郎と負ぶってる幸代も煤で顔が黒い。

志津「珠ちゃん! 君ちゃん!」

舞と君代、志津の声に反応し振り向く。

志津、舞と君代の姿を確認すると笑顔で手を振る。

舞と君代、全力で志津の元に駆け寄る。

志津、舞、君代、微笑み合う。

志津「祥ちゃんも、さっちゃんも無事やで」

手を繋いだ祥太郎と負ぶっている幸代を二人に見せる。

微笑む舞と君代。

志津、手ぬぐいを取り出し、舞と君代の顔を拭ってやる。

志津「よう頑張った。よう頑張った」

舞と君代、志津に抱きつくと、堪えていた涙がポロポロ溢れ出る。

志津、幸せそうな笑みを浮かべて舞と君代を抱き締める。

     ×   ×   ×

第八中学校、教室。

志津、子供たちを連れて中に入る。

乳飲み子を負ぶっている由美。

志津、由美に近づき、

由美「奥さん、無事やってんな」

由美、虚ろな目で志津を見る。

由美「へえ」

志津、乳飲み子の頭を撫でる。

志津「あんたも、よう頑張ったなぁ」

由美「死んでますねん」

志津「え?」

由美「この子、死んでますねん」

と、乳飲み子を志津に見せる。

志津、乳飲み子の背中をさする。

志津「……そうですか、そうですか」

     ×   ×   ×

廃墟と化した町内。

志津と子供達、とぼとぼ歩く。

前方から水野、疲れ果てた様子で歩いてくる。

水野「ああ、小林さん、ご無事でしたか」

志津「団長さんもご無事で。ご家族の皆さんは?」

水野「妻も息子も無事なんですけど、親父が」

と、手に持ったハトロン紙の封筒を見せる。

志津と子供達、不思議そうに封筒を眺める。

水野「死体が多すぎて、一体一体焼いてられんからって、何体もまとめて焼かれて……(俯いて涙を堪えながら)役所の人がスプーン一杯分の遺灰を、この封筒に」

志津、封筒に手を合わせる。

子供達も続いて封筒に手を合わせる。

     ×   ×   ×

十三、淀川付近。日中。

機銃掃射が低空飛行し、人々を狙い撃ちする。

逃げ惑う人々。

撃たれて怪我した人々がそこいらに呻きながら転がる。

舞と君代、手をつないで逃げ惑い、命からがら橋の下に逃げ込む。

恐怖に顔を引きつらせる舞と君代。

     ×   ×   ×

国鉄 京橋駅、日中。

B29、飛来する。

電車、線路の上で止まる。

降ろされた乗客、高架下に逃げ込む。

B29、無数の焼夷弾を投下する。

崩れ落ちる駅の高架。人々の悲鳴が轟く。

駅周辺を逃げ惑う人々。

そこかしこに血まみれの怪我人や遺体が転がる。

焼け焦げた新聞の切れ端が熱風に舞う。

切れ端の印字された文字が見え隠れする。

『昭和二十年八月十四日』

     ×   ×   ×

第八中学校、校庭。

朝礼台に置かれたラジオから流れる玉音放送

玉音放送「堪えがたきを堪え、忍びがたきを忍び」

校庭に集まった人々がラジオの前で正座し、天皇陛下のお言葉に涙する。

その中に幸代を負ぶった志津、舞、君代、祥太郎の姿もある。

みな、悔しそうに俯いて涙する。

     ×   ×   ×

バラック小屋。

顔色の悪い志津、配給された僅かな米と芋を調理して、四人の子供らに与える。

舞、自分の分を半分残し、

舞「お母さん、食べて」

志津「お母さんは、ええねん」

舞「でも、お母さん、殆ど食べてないやん」

志津「大人はちょっとでも大丈夫やねん。あんたが食べなさい」

舞「お母さん!」

志津「お母さん、工場に行ってくるから、みんなの事、頼んだで」

と、立ち上がると同時によろめく。

舞、志津に手を貸す。

志津「大丈夫やから」

と、微笑みヨロヨロと表に出て行く。

     ×   ×   ×

食品工場。

大きな鍋の中でグツグツ煮込まれる磯のり。

大人の工員に混じって作業をする舞。

女子工員A「珠ちゃん、お母さんの具合どないなん」

舞「寝込んだまんま」

女子工員A「(小声で)弁当箱、持っといで」

と、磯のりの鍋を指差す。

女子工員A「お母さん、ちょっとは元気になるわ(口に人差し指を当て)工場長さんに内緒やで」

舞、微笑んでこっそり持ち場を離れようとすると、血相を変えて走り込んで来た君代とぶつかる。

舞「君ちゃん、こんな所で走ったら危ないやん。怪我するで」

君代「お姉ちゃん! お母さんが」

     ×   ×   ×

バラック小屋。

横たわる志津の横に医者と祥太郎と幸代が座る。

医者、険しい表情で志津の診断をする。

舞と君代、息を切らして志津の枕元に座る。

志津「珠ちゃん、君ちゃん、みんなのこと頼んだで。ほんまに、堪忍な。もっと、みんなと一緒にいてたかったのに」

舞(M)「嫌や、お母さん。私も、もっとお母さんと一緒にいたい……あれ? 声が」

君代、祥太郎、幸代、泣きじゃくる。

志津「姉弟仲良く力合わせて、一生懸命生きてな。お父さんと二人で見守ってるからな」

舞、慌てながら弁当箱を開けて志津に磯のりを見せる。

志津、微笑み、

志津「大収穫やな。日本もこれから、ようなっていくわ。そしたら、もっといろんな美味しい食べもん手に入るようになるで」

舞、声が出ず口をパクパクしながら志津の手を取り首を横に振る

志津「ひもじい思いばっかりさして堪忍やで、ほんまに……ほんまに堪忍な」

と、力尽きて目を閉じる。

君代「お母さん、死なんといて!」

舞、必死で声を出そうと口を開くものの声が出ない。

医者、志津の脈を取り、残念そうに首を横に振る。

大声で泣く君代、祥太郎、幸代。

舞、目を見開き志津の亡骸を見る。涙がポロポロ目からこぼれ落ちるものの、声が出ず口だけパクパクさせる。

舞(M)「お母さん……」

     ×   ×   ×

現在の舞、苦しそうに口をパクパクしている。

舞「(大声で)お母さんも一緒に一緒に美味しいもん食べようやー!」

自分の声に驚きパチリと目を開ける舞。

 


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卒業/第 56 話

 

○舞の自宅・居間(夕方)

鞄に荷物を詰める睦。

学校帰りの舞、部屋に入ってくる。

舞「ただいま」

睦「あ、舞、今日、お婆ちゃんの家に行ってな。もう電話してるから」

舞「出張?」

睦「うん、明日、朝から広島で入学説明会あるから、夜の内に新幹線で移動しとこうと思って」

舞「明日、土曜やで」

睦「社会人向けやねん」

舞「ほんじゃ、今日、時間ないな」

睦「何?」

舞「空襲の体験記、読み終わったから、教えてもらおうかと思ってんけど」

睦、置き時計に目をやる。

時計の針は16時を示す。

睦「いいよ、新幹線の時間変更したらいいだけやし」

 

○小林宅・珠代の部屋(夕方)

舞、曾祖父母の遺影の前で正座して手を合わせる。

部屋を覗く珠代と由美。

舞、珠代と由美の間を抜けて自分の部屋に向かう。

由美「舞ちゃん、もうじきご飯やで」

舞「ごめん、明日食べる。冷蔵庫に入れといて」

由美「明日って。ちゃんと食べんと」

舞、部屋の扉を閉める。

珠代と由美、怪訝な表情で顔を見合わせる。

 

○同・舞の部屋(夜)

舞、机に突っ伏して眠る。

肩に半纏がかけられている。

 


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卒業/第 55 話

○中学校・教室(朝)

ホームルームの時間。

教壇に立つ水野。

水野「もうじき卒業式やけど、卒業製作どんな感じや。滝川ー」

滝川、パンを頬張りながら、万事OKとばかりに親指を立てる。

水野「おい、朝飯、家で食うてこいよー。ほんで、何割ぐらいできてるねん」

滝川、浪川の背中を叩く。

浪川「痛っ。(滝川に)お前に聞いてるんやろ。俺は、お前の小間使いやないっちゅうねん」

滝川、頬張った口を指差す。

浪川「(水野に)あー、0.9割ぐらいです」

水野「えーーー!」

浪川「もうじき終わるやん」

水野「いやいや、もうじきやないやろ。0.9割やったら、全体を10とした時、全体の1も終わってないってことやで」

浪川「……え?」

水野「お前、歩合の数、分かってるか。10のうち9できてるんやったら、9割で、ええねんぞー。もうじき受験やし復習しとけよ。これも出ることあるからなー」

浪川「ほ、ほ、ほんまに、いっ、1割もできてへんし」

滝川、浪川の頭を叩く、

滝川「何で、みんなの努力踏みにじってまで、そんなセコい見栄張るねん。(水野に)先生、来週には組み立てられるから」

水野「おお、そうか! やったなぁ! みんなお疲れさん」

生徒たち、気だるそうにガッツポーズ。

生徒たち「おおー」

 


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卒業/第 54 話

○舞の自宅・舞の部屋(夜)

睦「お婆ちゃん、曾お祖母さんなくなった時ショックで一時的に声失ったらしいんよ」

驚く舞。

睦「戦争っていうのは私らじゃ想像つかんほど過酷な経験やと思うねん。そういう辛いこと、どうやって質問していいか分からんわ。舞も辛い思い出、質問されるの嫌やろ」

舞、しょんぼりと冊子に目を落とす。

睦「滝川君に教えてもらった後で、これ読んで良かったわ。太平洋戦争って教科書の一部分にしか捉えて無かったけど、やっと家族の苦しみと向き合えた気がするわ」

舞「ずっと読んでなかったん?」

睦「何か恐くて。でも今回、大東亜戦争の勉強してやっと勇気が出た。いろいろ、ありがとうな。会ったことのない、お祖父さんとお祖母さんの事、初めて深く考えることできたわ」

舞「それ言うたら、私もやん。歴史は単なる学問じゃなくて、私らの人生と直結してることに気がついたわ」

睦「それ読み終わったら、声かけて。子供の時に、ちょっとだけお婆ちゃんから聞いた話するから。きっと、読み終わった後の方が理解しやすいと思うよ」

と、扉を閉めようとする。

舞「なあ、お母さんが、お婆ちゃんの思い出壊したんちゃうで。ルーズベルトトゥルーマンが壊したんやで」

睦「……せやな」

と、寂しそうな笑みを浮かべて部屋を出る。

舞、冊子を読む。

  


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